2025年4月、京都のJA共販における一番茶碾茶の落札価格が、1kgあたり14,333円を記録しました。前年の同等品は5,500円。わずか1年で265%の上昇です。
これは一過性の価格変動ではありません。日本の抹茶産業が構造的な供給危機に直面していることを示すシグナルです。抹茶原料を調達する輸入業者、食品メーカー、サプライチェーン担当者にとって、その影響はすでに現実のものとなっています。
価格データ:全品目で大幅上昇
| 品目 | 2024年(円/kg) | 2025年(円/kg) | 変動幅 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 京都一番茶碾茶(機械摘み) | 5,500 | 14,333 | +160% | 京都新聞 |
| 京都碾茶平均(機械摘み) | 4,862 | 8,235 | +69% | 日本茶業中央会 |
| 宇治手摘み碾茶 | 20,024 | 43,330 | +116% | 京都新聞 |
| 鹿児島煎茶(参考値) | 約400 | 約1,300 | +225% | 東洋経済 |
2025年の日本の緑茶輸出額は721億円に達し、前年比98%増となりました。このうち抹茶(粉末茶)が輸出総額の69%を占めており、2年前の58%から大幅に拡大しています。
根本原因:気候ではなく、人口構造の問題
今回の危機の本質は、天候不順でも市場の投機でもありません。短期的に逆転不可能な人口構造上の問題です。
日本の茶園数は、2000年の53,687戸から2024年には約12,000戸へと、77%減少しました。現在も営農を続ける茶農家のうち、70%以上が65歳以上です。49歳以下の若手茶農家は、全国合計で約1,500人にとどまります。
茶の栽培面積は過去10年間で29%縮小しました。2025年の一番茶は全国で10〜20%の減産、京都の手摘み碾茶に至っては約40%の減産と推定されています。
数字は明確です。世界の抹茶年間需要は約12,000トン。実際の生産量は4,000〜5,000トン。毎年7,000〜8,000トンの構造的な供給不足が存在し、需要の拡大とともにその差は広がり続けています。
業界の対応
主要企業はすでに価格改定に動いています。
- 伊藤園(日本最大の茶葉企業)は、2025年9月より抹茶製品19品目を50〜100%値上げしました。
- コカ・コーラジャパン(綾鷹ブランド)も2025年10月に値上げを実施しました。
- 東京都内の複数の茶葉専門店では、高品位の濃茶用抹茶について購入制限(お一人様一缶)を導入しています。
- 2026年4月9日、農林水産大臣が抹茶カフェを視察し、「輸出先の多角化」に対する政府支援を公式に表明しました。
中国産碾茶の台頭
日本の生産能力が縮小する一方で、中国は静かに世界最大の碾茶生産国となりました。
2025年の中国の碾茶年間生産量は約5,000トンで、世界供給量の約60%に相当します。貴州省銅仁市だけで約2,500トンを生産しており、貴茶集団(Guitea Group)は2025年初頭に中国産碾茶の日本向け商業輸出を清水港経由で実現しました。
価格差は顕著です。工業用食品グレードの碾茶は、中国産が15〜35ドル/kgであるのに対し、日本産は40〜70ドル/kg。30〜50%のコスト優位性があります。
フードサービス用途——抹茶ラテ、菓子類、アイスクリーム、RTD飲料など、世界の消費量の大部分を占める分野——においては、日本産から中国産への調達シフトがすでに始まっています。
バイヤーが注視すべき4つのポイント
1. プレミアム濃茶用抹茶は引き続き日本産が中心ですが、価格上昇は継続する見通しです。高品位製品ラインの予算見直しと供給源の早期確保が求められます。
2. フードサービス・工業用グレードは、中国産碾茶への切り替えが加速しています。中国からの調達チャネルを未構築のバイヤーにとって、参入の窓口は狭まりつつあります。
3. コンプライアンスは必須条件です。日本のポジティブリスト制度は800種以上の農薬残留を検査し、一律基準値は0.01ppmです。世界で最も厳格な食品安全基準のひとつであり、SGSまたはBureau Veritasなどの第三者機関による出荷前検査が不可欠です。
4. 調達先の多角化は、もはや個社の判断ではなく業界のコンセンサスとなっています。政府レベルの政策表明がこの方向性を裏付けています。単一供給源に依存する調達戦略は、リスクが高まっています。
注目の業界イベント:JFEX Tea World(2026年6月24〜26日、東京)
JFEX Tea World は、2026年の茶業界における最重要の商談・ネットワーキングの場となります。碾茶の調達多角化および中国産原料のコンプライアンスが主要テーマになると予想されます。日本市場への参入を検討している茶葉輸出業者にとって、代替供給源を積極的に探索している日本のバイヤーと直接接触できる貴重な機会です。
日本茶市場への参入:成功を左右する3つの要素
- ポジティブリスト対応:日本の800項目以上の農薬残留基準に対する第三者出荷前検査は、参入の前提条件です。差別化要因ではありません。
- 表示・包装:食品衛生法に基づき、原産地、原材料、アレルゲン、輸入者情報の日本語表示が義務付けられています。
- タイミング:現在の供給不足は、日本のバイヤーが新規供給元を積極的に求めている約12か月間の窓口を生み出しています。取引関係が固定化された後では、参入障壁は大幅に上昇します。
よくある質問
なぜ2025〜2026年に抹茶がこれほど高騰しているのですか?
日本の碾茶価格は116〜265%上昇しました。主な要因は、2000年以降の茶園数77%減少、茶農家の高齢化(70%以上が65歳超)、そして世界的な需要の急拡大です。年間の供給不足は7,000〜8,000トンと推定されます。
中国産碾茶は日本の食品安全基準を満たせますか?
一部の中国生産者(特に貴州省の貴茶集団)は、日本のポジティブリスト農薬検査(0.01ppm一律基準)に合格し、日本向け商業輸出を完了しています。ただし、コンプライアンスは生産者単位で判定されるため、バイヤーによるデューデリジェンスと第三者検証は不可欠です。
世界の抹茶の需給ギャップはどのくらいですか?
世界需要は年間約12,000トン。日中両国の合計生産量は約10,000トンですが、その多くは国内消費に充てられます。輸出可能な有効供給のギャップは年間7,000〜8,000トンと推定されます。
中国は日本に代わって世界の主要な抹茶供給国になれますか?
プレミアム濃茶グレードにおいては、日本の風土、品種、そして数百年にわたる加工技術は依然として他に類を見ないものです。しかし、工業用・フードサービス用グレード(消費量の大部分を占める)においては、中国の年間5,000トンの生産能力と大幅なコスト優位性により、最も有力な代替供給源としての地位を確立しつつあります。
Terra Vista Co., Ltd.(テラ・ビスタ株式会社)は日本を拠点とするビジネスコンサルティング・市場進入アドバイザリー会社です。茶葉を含む農産物の越境取引を専門とし、中国・モンゴル・ネパール・ロシア等の生産地と日本市場のバイヤーを結びつけています。茶葉貿易サービスの詳細 | お問い合わせ
データ出典:京都新聞、日本茶業中央会、東洋経済、財務省貿易統計、Firsd Tea グローバル抹茶市場レポート、銅仁市人民政府公式発表
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