製品を出すのは品質、ブランドを入れるのは文化です。日本側の輸入者と総代理店は、海外ブランドが本国で使っている訴求をそのまま訳す前に、二つの別々の問いを通す必要があります。
一つ目は、その市場のルールが言うことを許しているか。二つ目は、その一文が現地の読み手にどう受け取られるか。
答える相手が分かれているため、二つの問いの間が空きます。処方でできることを答えるのは工場、表現を書くのは広告会社、条文が許す範囲を示すのは規則そのものです。
この記事の要点
- 日本で化粧品が表示・広告できる効能の範囲は、平成23年7月21日 薬食発0721第1号 局長通知の別表第1に掲げる56項目として定められている(局長通知 PDF)。
- タイ化粧品法第41条は禁止される表現の類型を七つ列挙するだけで、使ってよい表現の一覧を条文に置いていない(タイ化粧品法 正本)。
- 「乾燥による小ジワを目立たなくする。」の標ぼうに必要な試験は外部に委託できるが、資料の保管と効能に見合うことの判断は製造販売業者の責任とされる(課長通知 PDF)。
- 誇大広告の禁止の名宛人を、日本の薬機法第66条第1項は「何人も」とし、タイ化粧品法第84条も名宛人を「ผู้ใด(何人も)」とする(薬機法 e-Gov/タイ化粧品法 正本)。
要点の四つは、いずれも単独で読んでも意味が通るように書いてあります。以下では、その根拠と使い方を市場ごとに分けて説明します。
同じ一文が受ける審査は、ルールの審査と読まれ方の審査に分かれる
化粧品の訴求は、日本でもタイでも、条文が許す範囲に収まっているかという審査と、現地の読み手にどう受け取られるかという審査を、別々に受けます。
審査が二つに分かれること自体は、本稿で見る日本とタイのどちらでも変わりません。分かれ目になるのは、それぞれの審査を何が決めているか、そして誰が答えを出せるかです。
工場が答えられるのは、処方でできることまでです。広告会社が答えられるのは、書き方までです。市場が何を許すかと、人がその一文をどう読むかは、その両方の外側に落ちます。
訴求を市場ごとに分岐させる作業は、その落ちた部分を拾い上げる作業です。拾い方は市場によって違うので、まず日本側から順に見ていきます。
日本で化粧品が書ける効能の範囲は、どの文書が決めているのか
日本で化粧品が表示・広告できる効能の範囲は、平成23年7月21日 薬食発0721第1号 局長通知の別表第1に掲げる56項目として定められています(局長通知 PDF)。
別表第1を載せた局長通知は、56項目に入らない訴求がすべて違法だとは書いていません(局長通知 PDF)。
課長通知(平成23年7月21日 薬食審査発0721第1号ほか、PDF)は、これらの効能以外のメーキャップ効果及び使用感等を表示し、広告することは、事実に反しない限り認められると述べています。
広告の媒体の範囲を定めるのは医薬品等適正広告基準で、ウェブサイト及びソーシャル・ネットワーキング・サービス等のすべての媒体を対象としています(適正広告基準 PDF)。
適正広告基準は、効能効果等が確実である保証をするような表現と、最大級の表現又はこれに類する表現を、それぞれ禁止しています(適正広告基準 PDF)。
承認を要しない化粧品の効能効果についての表現は、局長通知に定める範囲をこえてはならないと、適正広告基準が述べています(適正広告基準 PDF)。別表第1の56項目は、この一文によって広告の天井になります。
日本側の訴求の可否は、一つの文書では決まりません。効能の一覧を置くのは局長通知、その外側でメーキャップ効果及び使用感等の余地を認めるのは課長通知、その一覧を広告の天井として使わせ、媒体の範囲まで決めるのが適正広告基準です。
| 文書 | 決めていること | そこには書かれていないこと |
|---|---|---|
| 局長通知 薬食発0721第1号(PDF) | 別表第1の56項目という効能の範囲(PDF) | 各項目を使うための条件(PDF)。56項目の外の訴求がすべて違法だとも書いていない(PDF) |
| 課長通知 薬食審査発0721第1号ほか(PDF) | メーキャップ効果及び使用感等は事実に反しない限り認められること。別表第1第(56)項の実証要件(PDF) | 「メーキャップ効果」「使用感」の定義と許容表現の具体例 |
| 医薬品等適正広告基準(PDF) | すべての媒体が対象であること。保証表現と最大級の表現の禁止。承認を要しない化粧品の効能効果の表現は局長通知に定める範囲をこえてはならないこと | 「最大級の表現」の具体例。基準自体に罰則はない |
表の三行は、順番に読むと一本の判断になります。効能として言い切れるか、言い切れないなら別の言い方が残っているか、その言い方が一覧の天井を超えず、どの媒体まで及ぶかという順序です。
言い過ぎた一言は、意味を落とさずに書き直せることがある
「小ジワを解消する」「素肌の若返り効果」「老化防止効果」は、日本化粧品工業連合会「化粧品等の適正広告ガイドライン」E18が、認められない表現の範囲として挙げています(課長通知 PDF)。
認められる表現としてE18が挙げているのは、うるおいにより乾燥による小ジワを目立たなくする表現です(課長通知 PDF)。
E18は日本化粧品工業連合会の自主基準であり、法令そのものではなく、違反に罰則を定めてもいません(課長通知 PDF)。
別表第1第(56)項「乾燥による小ジワを目立たなくする。」(課長通知 PDF)を標ぼうするには、日本香粧品学会の抗シワ製品評価ガイドラインに基づく試験又はそれと同等以上の適切な試験が求められます。
試験の実施は他の試験検査機関等に委託して差し支えないものの、資料の保管と効能に見合うことの判断は、製造販売業者の責任で行うこととされています(課長通知 PDF)。
課長通知は、試験結果を行政へ提出することも、届け出ることも、事前の承認を受けることも求めていません(課長通知 PDF)。
試験の裏づけがまだ手元にない段階でも、道は残ります。メーキャップ効果としてシワを目立たなくみせる表現は、確実であるような保証をする表現又は事実に反する表現を除いて認められると、E18は述べています(課長通知 PDF)。
書き換えの向きは二つに割れます。別表第1第(56)項の効能として言い切る道は、その項に限って試験と資料保管を伴い、メーキャップ効果や使用感として述べる道は、事実に反しないことを条件にします。
意味が落ちるかどうかは、ここで決まります。「小ジワを解消する」を捨てる代わりに、何を守りたかったのか——見え方なのか、うるおいなのか——を先に決めれば、残せる文言が変わります。
タイの条文が並べているのは、禁止される類型であって使ってよい表現の一覧ではない
タイ化粧品法第41条は、消費者に不公正な表現と社会全体に悪影響を及ぼしうる表現を禁じたうえで、禁止される類型を七つ列挙しています(タイ化粧品法 正本)。
七類型には、疾病の治療にあたる効能や、化粧品の目的ではない効能を示す表現が含まれます(タイ化粧品法 正本)。
第41条は、使ってよい表現の一覧を条文に置いていません。何を言えるかは、この条だけでは答えが出ない作りになっています(タイ化粧品法 正本)。
末項には、一般人が一見して真実ではあり得ないと分かる表現は第(1)号に当たらないとありますが、その境界は本条に書かれていません(タイ化粧品法 正本)。
タイ化粧品法第46条は、届出者(ผู้จดแจ้ง)または広告主が、広告の前に委員会の意見を求めることができると定めています(タイ化粧品法 正本)。
委員会は申請の受理から60日以内に意見を通知しなければならず、期間内に通知がないときは同意したものとみなされます(タイ化粧品法 正本)。
意見に従って行った行為は刑事上の罪としないとされる一方で、委員会が後に正当な理由をもって改めて判断する余地は残されています(タイ化粧品法 正本)。
第46条の手続は「できる」と書かれた任意の道であり、出稿前の審査を義務づけたものではありません(タイ化粧品法 正本)。
第41条に適合しない広告を行った者には、1年以下の拘禁もしくは10万バーツ以下の罰金、またはその併科が定められています(タイ化粧品法 正本)。
継続する違反については、第88条が1日あたり1万バーツ以下の罰金を別に定めています(タイ化粧品法 正本)。
起算日と継続の判定基準は第88条に書かれていません(タイ化粧品法 正本)。罰の性質も確定しておらず、日額から総額を試算することはできない、というのが今わかっている限界です。
日本とタイの違いは、条文の厳しさではなく、入口の作りにあります。範囲の一覧から入る市場と、禁止の類型から入る市場では、同じ一文でも確かめる順序が変わります。
| 項目 | 日本 | タイ |
|---|---|---|
| 判断の起点 | 別表第1の56項目という効能の範囲(PDF) | 第41条が列挙する禁止類型。使ってよい表現の一覧は条文にない(PDF) |
| 行政に先に問う道 | 第(56)項の試験結果について、提出・届出・事前承認は求められていない(PDF) | 第46条の事前意見。任意、受理から60日以内、無回答は同意とみなす(PDF) |
| 裏づけを持つ人 | 第(56)項を標ぼうする場合、資料の保管と判断は製造販売業者の責任。試験の実施は委託可。他の55項目には及ばない(PDF) | 第46条の意見を申請できるのは届出者または広告主(PDF) |
| 禁止の名宛人 | 薬機法第66条第1項は「何人も」(e-Gov) | 第84条は「ผู้ใด(何人も)」で、届出者に限らない(PDF) |
| 金銭的な制裁の入口 | 虚偽又は誇大な広告(第66条第1項)に違反した者は第85条第4号により2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその併科(e-Gov)。第75条の5の2の課徴金は第66条第1項違反のみが対象で、対価合計額の4.5%(e-Gov) | 第84条は1年以下の拘禁もしくは10万バーツ以下の罰金。第88条に1日1万バーツ以下(PDF) |
比較表で最も実務に効くのは、禁止の名宛人の行です。名宛人がどちらの市場でも広く取られているため、現地の代理店に任せても文言の上では責任が移りません。
読まれ方は感覚の話ではなく、条文の要件として現れることがある
タイ化粧品法は、表示と広告のそれぞれに条文を置いていますが、要件の書きぶりは同じではありません。表示については、第22条第2項第(1)号が、道徳またはタイの善良な文化に反する表現を用いないことを求めています(タイ化粧品法 正本)。
広告については、第41条第(5)号が、法律違反または道徳違反を直接もしくは間接に助長する表現と、国家の文化の毀損につながる表現を禁じています(タイ化粧品法 正本)。
表示側の条文が「反する」かどうかを問うのに対し、広告側の条文は、助長するか、毀損につながるかを問います。
本稿の前半では、規則の審査と読まれ方の審査を別々のものとして置きました。タイ側の表示と広告では、その二つが一本になります。
読まれ方が条文の要件になっている以上、語感の議論と規則の議論を分けられません。訳文の自然さを整えるだけでは、この要件に触れているかどうかは判定できません。
誇張の扱いにも差が出ます。日本側の基準は最大級の表現又はこれに類する表現を禁止し(適正広告基準 PDF)、タイ側は明らかな誇張に例外の余地を残しています(タイ化粧品法 正本)。
訳せたことと、意味が渡ったことは別です。タイ食品医薬品局の英語サイトの英訳は、安全でない化粧品を販売した者への罰金を3万バーツ以下と記していますが(英語サイトの訳文)、タイ語正本の第74条第2項は30万バーツ以下です(タイ化粧品法)。
確認できているのは第74条第2項の一箇所だけで、その訳本の全体が使えないという話ではありません(タイ化粧品法 正本)。
法律の条文でさえ、公式に置かれた訳で桁が一つ動きます。売り文句の訳が同じ精度で渡っている保証は、どこにもありません。
一つの主張を市場ごとに分岐させるとき、誰が何を出すのか
訴求の分岐では、処方でできることの確認、実証資料の保管、事前意見の申請という三つの役割が、それぞれ別の当事者に割り当てられます。
別表第1第(56)項「乾燥による小ジワを目立たなくする。」を標ぼうする場合、実証資料の保管と効能に見合うことの判断は製造販売業者の責任で、外部に委託できるのは試験の実施までです。この要件は他の55項目には及びません(課長通知 PDF)。
日本で容器に氏名又は名称及び住所が記載されるのは製造販売業者で、薬機法第61条第1号がそう定めています(薬機法 e-Gov)。
裏づけを持つ人と、名前が容器に載る人は、日本側では同じ「製造販売業者」に重なります(課長通知 PDF/薬機法 e-Gov)。
製造販売業者という位置に誰が立つのかまでは、条文が決めていません。薬機法第2条第13項の「製造販売」の定義には、輸入者・総代理店・ブランドオーナーといった商流上の呼称が出てきません(薬機法 e-Gov)。
海外法人が自ら許可を受けられるかどうかについても、第12条第1項の許可の条文は述べていません(薬機法 e-Gov)。
当社も可否を明言した一次資料に行き着けていないため、ここは答えではなく問いのまま渡します。問いは「海外法人が日本に拠点を持たないまま化粧品製造販売業許可を受けられるか」です。
問う先は、許可の権限を持つ都道府県です。その権限は、総括製造販売責任者がその業務を行う事務所の所在地の都道府県知事にあると、薬機法施行令第80条第2項が定めています(薬機法施行令 e-Gov)。
タイで第46条の事前意見を申請できるのは、届出者または広告主に限られます(タイ化粧品法 正本)。
日本側では、誇大広告(薬機法第66条第1項)に違反した場合の金銭的な負担も、条文に書かれています。第75条の5の2第1項は、課徴金を対価の額の合計額に4.5%を乗じた額と定めており、原価や利益率は控除されません(薬機法 e-Gov)。
第66条第1項違反に係る課徴金対象期間を最長3年とするのは薬機法第75条の5の2第2項で、算定額が225万円未満のときは納付を命じることができないと同条第4項が定めています(薬機法 e-Gov)。
当社は法律上の権威としてふるまいません。国ごとの状況の違いを踏まえて分析と判断を行い、最も無理のない進め方を提案し、根拠となる条文と出所を添えて渡します。
言い過ぎた一言を指摘するだけでは足りません。意味が落ちない書き換え案と、その裏づけを誰が出すのかまで書いて、はじめて次の判断に進めます。
よくある質問
本国で使っている訴求は、日本語に訳せばそのまま使えますか。
訳しただけでは足りません。日本で化粧品が表示・広告できる効能は局長通知の別表第1に掲げる56項目で、その外側については、メーキャップ効果及び使用感等の表示・広告を事実に反しない限り認めると課長通知が述べています(局長通知/課長通知)。
「乾燥による小ジワを目立たなくする。」と書くには何が必要ですか。
日本香粧品学会の抗シワ製品評価ガイドラインに基づく試験又はそれと同等以上の適切な試験を行い、効果を確認することが課長通知で求められます。試験の実施は委託できますが、資料の保管と判断は製造販売業者の責任です(課長通知)。
タイでは広告を事前に当局の承認へ通す必要がありますか。
タイ化粧品法第46条は事前の意見を求めることが「できる」と定めており、事前の審査を義務づけてはいません(タイ化粧品法)。委員会は受理から60日以内に通知する必要があり、通知がなければ同意したものとみなされます(同法第46条)。
広告の責任は、現地の代理店に任せれば移りますか。
文言の上では移りません。日本の薬機法第66条第1項は誇大広告の禁止の名宛人を「何人も」としています(薬機法)。タイ化粧品法第84条も名宛人を「ผู้ใด(何人も)」として届出者に限っていません(タイ化粧品法)。
まとめ——一つの主張を、市場ごとに分岐させる
訴求は、書き直しの前に二度測るものです。ルールの側で言ってよいかを測り、読まれ方の側で意味が渡るかを測ります。
測り方が市場ごとに違うので、一つの主張は分岐します。分岐した先の一文には、言い過ぎた一言の代わりと、その裏づけを誰が出すのかが、必ずくっついています。
越境ビジネスが途切れるのは、物流ではなく文化です。モノは運べ、カネは送れ、法令は調べられる。運べないのは、商習慣と意思決定のロジック、そして信頼の築き方です。
運べないものがあるから、当社の進め方は、文化を橋に、理解を道に。訴求を市場ごとに分岐させる作業は、その道の上で最初に踏む一歩になります。
製品を出すのは品質、ブランドを入れるのは文化です。だからブランドは、新しい市場ごとに、その土地の文化に合わせて育てなおす。訳すのではなく。
四つのステップに共通する方法は一つです。文化は、運ぶのではなく、理解する。本国で通った一文をそのまま訳して送るのではなく、その市場が何を許し、人が何をどう読むかを先に確かめます。
だから順序はこうなります——市場を選び、その市場の規則を押さえ、訴求を書き、工場は最後に選ぶ。
処方でできることを答えるのは工場、表現を書くのは広告会社、条文が許す範囲を示すのは規則そのものです。他社はそれぞれ一区間を受け持ちます。当社が受け持つのは、区間と区間のあいだでブランドの形が変わらないことです。
訴求は、ルールの側と読まれ方の側にまたがるぶん、その形がずれやすい区間です。言ってよいかを決めるのは市場の規則で、言って効くかを決めるのは現地の読まれ方です。
Terra Vista は日本に登記した越境戦略コンサルティング・グループです。この四つのステップの全体像は、Brand Studio のページにまとめています。
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